湯本豪一氏に「予言獣アリエのお話」を聞いた

 時間ギリギリまで悩んだが、台風の接近が当初言われていたより遅くなるというので思い切って新宿へ。大久保の《カフェアリエ》という、予言獣アリエを店名に冠した奇特な店で湯本豪一氏の講演があったのである。しかも演題は「妖怪研究家 湯本豪一氏に聞く『予言獣アリエのお話』」。
 辿り着いた店は木の造りで、かつてアトリエだったというだけあって天井が高くて採光が好く、晴れた日は気持ちよさそう。客層は妖怪系というより「アリエって何だ?」というカフェの常連さんたちが主、という感じで湯本氏の話もその辺を配慮して、予言獣の概説に最近の調査結果を交えたもの。
 目玉は昭和の新聞で発見したという、生きた(!)人魚の工場潜入記だ。
 戦前、上海の大学で教えていた日本人が、同僚に面白いところに連れて行ってやると誘われ、着いた先はとある路地の奥。インド人の番兵が警備する鉄格子の向こうには、どこかから掠われてきた全裸の男女が床に転がされていた。彼らの両脚を焼き鏝でくっつけ、一本にまとめたところに魚の尾を接合して、生きた人魚の出来上がり。さらにその奥の第2工場では同様に、シャム双生児だの一つ目小僧だのが続々と生み出されていたという。
 ほとんどショッカーというか乱歩の世界だが、記事が所どころ過激すぎて伏せ字になっているというのがまた、何ともリアルでイヤではないか。


 収集物では、江戸時代の本の間に挟まっていたという、手描きのアマビコの御札が興味深い。本の持ち主あたりが描いたと思しきこの阿磨比古、よく宇宙人の目撃者が描く絵心皆無のスケッチを彷彿とさせる下手っぷりだが、どこかで見たことあると思ったらしらけ鳥そっくりだったんだな。

何とも御利益なさそうだがしかし、我が姿を写して拝め、というお告げには最も忠実であるわけだ。そのプリミティヴさが生々しく、今ならさしずめ電波ビラといったところで味わい深いが、よくぞまあ残っていましたという感じ。
 まだ調査途上だが、アマビコの木乃伊が水棲・陸棲両方発見された、というのもそそられる。どうやら水棲の方は船乗りが水難除けに所持していたらしいとのこと。


 それで肝心のアリエに関しては――結局例の新聞記事以外、別の文献は未だ1件も見つかっていないそうだ。ひょっとしたら新資料発見の話でも聞けるかと、少し期待していたのだけれど残念。
 形状については、当時すでに恐竜の姿なども新聞で伝えられているので、あるいは影響を受けているところもあるかもしれないが定かではない。名前にも何らかの意味があるはずだが、カタカナではなかなか……と。
 全てが記者の適当な創作だったりしたら、それはそれで凄いけどね。

 講演の後は、かつて川崎市民ミュージアムの幻獣展で買ったアリエのフィギュアの説明書に、監修者ということで湯本氏のサインを頂く。

俺のは茶色版だが、店のスタッフの女性はピンク版を持っているそう。いいなあ。ちなみに幻獣グラスもあるそうなんだが、今日の会には用意できなかったというのは残念。
 アリエがあしらわれた店のコースターセットを買って無事帰宅。

アリエの御利益か台風も来ず、和やかでいい会でした。