原発もみんなで動かせば怖くない

6月8日付東京新聞こちら特報部」より。

大連立“真の狙い”は/駆け引き優先 国会休業?


ドイツでは6日、福島第1原発事故を受けて、2022年までの原発全廃が閣議決定された。一方、日本の国会議員は、原発事故の収束や大震災の復興に全力を注ぐべき時に、大連立の駆け引きに忙しい。ともに原発政策を推進してきた民主、自民両党は、なぜいま連立政権を画策するのか。被災者救済を二の次にするかのように、与野党が最優先で取り組んでいる大連立の“真の狙い”を探った。(篠ケ瀬祐司、中山洋子)


7日昼すぎ、国会近くの憲政記念館与野党国会議員が続々と集まってきた。超党派の「憲法96条改正を目指す議員連盟」の設立総会。憲法改正をやりやすいように要件緩和をもくろむ。
出席議員は民主、自民を中心に公明、みんなの党、国民新、たちあがれ日本の各党議員ら約100人(主催者発表)。会場からは
「大連立が実現すればすぐ緩和できる」
との声も漏れるほど、高揚感に包まれた。
その熱気とは対照的に、衆議院ではこの日、本会議や委員会が一切開かれず、議員の姿もまばら。節電中とあって廊下も薄暗い。
国会が全く止まっていたわけではない。各党担当者は復興基本法案を協議し、衆院財務金融委員会の各党理事は、復興支援のための金融機能強化特別措置法改正案を8日に採決することで合意。参院総務委員会は7日、被災地の地上デジタル放送への完全移行を延期する電波法特例法案を可決した。
ただ、一部の震災関連法案以外の審議は停滞しているのも事実。自民党国対関係者は
「各法案に是々非々で臨む」
としているが、谷垣禎一総裁が菅内閣での2次補正予算案と公債発行特例法案への協力拒否を打ち出しており、当分は事実上の「開店休業」(与党議員)が続きそうだ。
エネルギー政策を巡る議論も盛り上がりに欠ける。昨年、原発の運転延長を決めたドイツ政府は、福島の原発事故で見直しに着手。選挙で反原発を掲げる政党が躍進し、脱原発に大きく方針転換した。連邦議会での審議も始まる。
日独両国の違いはどこにあるのか。自民党河野太郎衆院議員は
「ドイツ政府を動かしているのは世論の盛り上がりだ」
と分析。日本の世論の動きが鈍い理由について
「長い間メディアが原子力の問題を正面から取り上げなかった。原発事故後も何が本当の情報か分からないままだ。国民は正しい情報に基づいた議論をするまでに至っていない」
と情報不足を懸念する。
法案審議やエネルギー政策論争の低調さに比べ、大連立の駆け引きは民主、自民両党間で活発だ。大連立の目的が震災復興や原発事故対応ならば、「脱原発」を主張する社民党や「原発からの段階的撤退」を掲げる共産党も含め、すべての政党で話し合ってもいいのではないだろうか。
与野党議員に尋ねると、民主党の中堅議員は
「共産、社民両党とは原発に対する立場がまるで違うから話ができない」、
自民党のベテラン議員も
「特に共産党とは社会に対する考え方からして違う」
とにべもなかった。
大連立に向けて際立つのが、仙谷由人官房副長官の動きだ。自民党大島理森副総裁らと会談を重ね、BS番組でも
「根回しを一生懸命やっている」
と認めた。
ちなみに仙谷氏は3月から被災者生活支援担当に名を連ねるが、これまで東北の被災地を訪れたのは4月下旬の1回のみ。官邸は
「危機管理として官邸を離れることができない場合も多い」
と説明するが、大連立の画策ほどには被災者支援の動きが見えない。
財界も大連立を後押しする。日本経団連米倉弘昌会長は6日の記者会見で
「首相には大連立を可能にする方向で『捨て石』になってほしい」
と述べ、“菅抜き”での「挙国一致内閣」の樹立を求めた。
経済同友会の長谷川閑史代表幹事も
「与党と野党第1党の協力」
を歓迎。政策課題を絞り込み、第2次補正予算の成立とともに、消費税増税も含めた税と社会保障の一体改革を主張する。
こうした大連立画策を識者はどうみるか。
政治評論家の森田実氏は
「復興や原発処理でろくな仕事もできなかった政治家が、数を倍にしたところで何ができるのか。大連立を組めばうまくいくと思うのは空想にすぎない」
と手厳しい。
とりわけ野党も巻き込み“連帯責任”で大増税に踏み込む動きを危ぶむ。
「被災地に金を出す条件であるかのように、消費税アップを進めるのは許されるのか。一人では怖くて渡れない“赤信号”を、みんなで渡ろうとするのは無責任」
と批判する。
また、政治評論家の板垣英憲氏は
「がれき撤去や仮設住宅の確保には、業界を動かせる古いタイプの政治家が役立つ。人脈と経験がないのが菅政権の弱点だが、被災地でがれき撤去すらほとんど進んでいないのは怠慢としか言えない」
と憤る。
実際、板垣氏は知り合いの産廃業者から
「待機しているが、どこからも要請がない」
と聞くという。大連立は政権の“機能不全”への焦燥が背景にあると指摘。
「業界団体や役人を上手に動かせる自民党長老の力を借りたがっている」
とみる。
だが、原子力政策を長年進めてきた自民党との連立は、原発推進の堅持にほかならないのではないか。
板垣氏は
「日本の原子力政策は米国の管理下にある。日本は米国の核戦略に組み込まれており、米国の意向を無視して原発を全廃することは許されない。民主党政権だろうが、大連立になろうが、日本の原発行政は変わらない」
と分析する。
「ドイツと比べると、日本では脱原発の世論も大きな力にはなっていない」
とも。
「反原発運動は、嫌がらせと札束でねじ伏せられてきた長い歴史がある。気持ちはどうあれ、日本では依然として『原発ノー』とは言いにくい」
と板垣氏。
実際、自民党だけでなく、原発行政から抜け出せないのは民主党も同じだ。
菅首相の信頼が厚い助言者で、4日に亡くなった内閣特別顧問笹森清氏は元連合会長で、出身は東電労組委員長だった。連合の後押しを受けた民主党も「原発立国」を掲げてきた。菅首相は、浜岡原発の停止を「特別なケース」と説明し、ほかの原発を停止する考えはないと明言。エネルギー基本計画の見直しも、裏付けがなくパフォーマンスと批判されている。
森田氏は
「最悪の事故を起こした以上、日本が取るべき道は原発を廃止することだが、大連立では民主と自民が励まし合って原発行政をさらに進めていくのは明白。批判がなければ政治は例外なく堕落する」
として、世論の喚起を促す。

スタンス自体が反/脱原発に振れすぎているきらいはありますが、やっぱそうなんだろうなあ、と思わせる東京新聞得意のがっかり記事。
そんな中で、憤りの人・森田実の今さらな“赤信号みんなで渡れば”ネタや「民主と自民が励まし合って」というフレーズが妙に可愛らしくて心が和む。
しかし、個人的にツボだったのは
共産党とは社会に対する考え方からして違う」
未だにそうなのかぁ。