一度は撮りたい女もの

江崎実生

背広・ネクタイで撮影所に来てね、入社の挨拶があって午前10時に集まって、昼からもうつけられちゃったの、忘れもしない古川卓巳って人の作品に。で、もう10日間家帰れない、そのまんま。この近所の旅館に明け方頃割り振って、車で割り落とされて、寝たかなと思ったらもう2時間後くらいに叩き起こされて、また撮影所に連れてこられて、で、もう1週間くらいで「死ぬな」と思ったわけ。もう動物の本能でね、眠たくなったらどこでも寝りゃいいやと思ってね。眠たくなったら書割のホリゾントの裏に行ってね、寝てたの。

大変なんだよ、脚本。あんなにしんどい仕事はない。向かない。監督は楽だわ。

俺、メロドラマしかやりたくないんだよ。ずうっとそうだったの。なんで日活入っちゃったのかなと思っちゃってさ。メロドラマってのは松竹だから、やっぱり松竹に行きたかったんだよ。我慢の緒が切れちゃって、会社に言って女の話やらせてくれって。はっきり言って姦通ものやりたいんだ。綺麗事の話なんて面白くも何ともない。本当のこと話さないと。


チャンネルNECOで放映している日活100周年記念のインタビューより。


日活は上がいなくてのびのびしてた、という述懐はよく聞くが、実は松竹に行きたかった、というひとも結構多いような気がする。
この感覚、俺くらいの年だとまったくピンと来ないんだよな。やっぱり“インテリー”の会社に対する憧れがあったのか。


“女の話やらせろ”と会社に直訴した結果が《女の警察》だったりしたら笑うんだが、実際には『華やかな女豹』あたりなのかな。


ともあれ、江崎実生というとまず『ワイルド7』が思い浮かんでしまうような俺は、なんだか後ろめたい気にもなったのだった。