ブラブラしてて悪かったな!

駅のホームで電車を待ちながら文庫本を読んでいると 、突然

ダメだよそんなことしてちゃ!

といささかバランスを欠いた感じの声が。どうやら、さっきからうっすらとは気になっていた、電波の気配をまつわりつかせてホームを往ったり来たりしているおばちゃんである。どっかと交信してるんだなあ、と思っていると、

ほら、本なんか読んでちゃダメだって!

お、俺に向けて放送してるのか? しかも、俺の応答を待ってる気配だぞ。
さしずめ、平山夢明あたりならここで「なんでダメなんですか?」とすかさず訊き返して、興味深いインタビューをものにするところだろうが、今の俺にはいろいろあって、そんなヒューマンインタレストを持つ余裕がない。目を合わせずにいると

明治の文学青年を気取るんじゃないよ。どうせ今時の大学生なんか、頭が空っぽなんだから本読んだって中身なんか分かんないだろ? 満員電車の中で分厚い本を広げて、読んでるふりなんかしてさ。やめろやめろ。日本人はそんなダサイことなんかしないんだよ。本なんか読むのはみんなチョーセン人なんだ。定説だよ。知らないのか? 日本人はマンガしか読まないんだ

と言いながら、ゴミ箱に大量のゴミ袋を次から次へとひっきりなしに押し込んでいる。
それでも俺が負けずに黙々と読んでいると、ゴミを入れ終わったらしく

ふん、こういうやつに限って定職にも就かずにブラブラしてるんだ

と捨てぜりふを遺して去っていった。
わ、悪かったな……!


よかったこと:「大学生」と言われた