めろんちゃんのひみつのハンバーグ

昨日(23日)付東京新聞読者欄より。

ひみつのごはん


先日、電車にゆられていたときのこと。
ある駅から乗ってきた小さな女の子の愛らしさに、私は目を奪われました。ヘンリー・ダーガーの絵に描かれている子どものような、無垢な感じの女の子でした。
まだ三歳くらいでしょうか。若いお母さんといっしょに、私の近くの席に座りました。親子の会話が聞こえてきます。
「ねえねえママ、今日のごはんはなに?」
「夕ごはん? 今日はハンバーグよ」
「わーい!」
女の子はにこにことうれしそうです。でもそのすぐあとで、またお母さんにこう聞きました。
「じゃあ、明日のごはんは?」
「え、明日? うーん、まだ考え中なんだけど」
女の子はお母さんの目をまっすぐに見上げています。答えないわけにはいきません。
「明日のはね、ひみつ」
「…ひみつ? ひみつ食べるの?」
女の子はまだ、ひみつという言葉を知らないようです。私は、お母さんが、その言葉について説明をするのかなと思いました。でもお母さんは、ほほ笑みながら、こう言いました。「うん、そう。ひみつ、食べちゃうのよ」。まあすてき。なんてしゃれた答えでしょう。でも実際、明日になったらどうするのかって?
いえ、そんなことは明日考えればいいんです、明日(笑)。ひみつって、どんな食べものなのかなあ…期待に胸をふくらませ女の子の瞳はきらきらと輝いています。明日のごはんを楽しみにできる幸せ。ユーモアのセンスを持つ優しいお母さんがいる幸せ。女の子が受けた幸せはやがて女の子が他者に贈る幸せへと、育っていくことでしょう。
「あ、ついたわよ」
手をつないだ二人が降りる姿を見送りながら私は、親子の食卓を思い浮かべます。あのお母さんが作るお料理なら、今晩のハンバーグも、そして明日の「ひみつ」も、きっと、おいしいに違いありません。


牧野節子(大田区・児童文学作家)

よりによってダーガーかよ!

ちなみにこの牧野節子さんには、
めろんちゃんのマジックギョーザ (童話のパレット)

めろんちゃんのマジックギョーザ (童話のパレット)

めろんちゃんのメルヘンケーキ (童話のパレット)

めろんちゃんのメルヘンケーキ (童話のパレット)

めろんちゃんのドリームカレー (童話のパレット)

めろんちゃんのドリームカレー (童話のパレット)

というシリーズがありまして、それを踏まえて読み返すと、いろいろな意味でいちだんと趣が深くなる投稿であります。


あー、「めろんちゃん」と聞いて、こっちを思い浮かべたダメな大人は誰だ?