スターリング、エフレム・ジンバリストJr

エフレム・ジンバリストJrは、僕がこの世で3番目に名前をよく「聞いた」俳優。『アメリカ連邦警察 FBI』のオープニングで、毎回「スターリング、エフレム・ジンバリストJr」と読み上げられていたからね(ちなみに1位はヴィク・モローとリック・ジェーソン@『コンバット』)。
黒沢良吹替えの「FBIのアースキン捜査官だ!」という決め台詞(?)も耳に馴染んでいる。
この『FBI』、実録ものだけあって、捜査官の活躍というよりは犯罪者や関係者たちのドラマが主のオムニバス風という印象が強い。オープニングとエンディングで犯人の名と罪名・量刑が読み上げられるなど、ドキュメントタッチのナレーション(エンディングで「××は〜の罪でン年の判決を受け、今も△△刑務所に服役中である」というのが妙にリアル)も含めて、オトナの香りを感じたものだ。
また、プロローグ、ACT1〜4、エピローグという構成もこの番組で知った。
ゲストも'60〜70年代TV的豪華さで、大部屋(?)時代のハリソン・フォードマーク・ハミルを見た時には、当時小学生の僕は興奮したよ。
年齢的に、リアルタイムよりは再放送が主だが、僕にとって海外TVシリーズの面白さを知る教科書的な作品のひとつだった。
その主演だったジンバリストJrが、そもそも21世紀の今日まで生きていたことにまずは驚いたが(失礼)、子供の頃のお馴染み俳優が亡くなるというのは、やはりなんとも寂しいね。

楢喜八さんにお話を聞いたのだ

19(土)は推理作家協会の土曜サロンへ。
ゲストは画家・イラストレーターの楢喜八氏。『ミステリマガジン』の!とか『幻影城』の!とかハヤカワ文庫の!とか『真ク・リトル・リトル神話大系』の!とか『学校の怪談』の!とかその他諸々、世代や嗜好によってさまざまだろうが、僕にとってはまず子供向けの「豆本」の人。阿刀田高が手がけたホラーやミステリ、ブラックユーモアのアンソロジーに何とも気色の悪い挿絵を描いていて、内容とも相俟ってとてつもなくアダルトな、よくないものに触れているという背徳感をびんびんに刺激されたものである。個人的にはポプラ社乱歩の大人向けや、天知茂明智小五郎よりもトラウマ感は上。


そんな(どんなだ)楢さんは少年時代、山川惣治絵物語などに影響を受け、自身でもペン画を描くように。金沢の美大(市立で学費が安かったからだそう)を出て'62年に上京。
当初は服の織りネーム(ラベルみたいなところ)の下書きや、晴海の見本市会場で商品説明等のパネル描きなどさまざまな仕事をしていたが、子どもが生まれるのを機に、奥さんの友達の親戚の紹介で早川書房を訪ね、『ミステリマガジン』'68年8月号のオーガスト・ダーレス「ダーク・ボーイ」で挿絵画家としてデビューした。
以後、ラヴクラフトクトゥルーの喚び声」(ラヴクラフトを読んだのは初めてで、イメージの具体化に苦労したとのこと)、W・H・ホジスン『異次元を覗く家』などの怪奇幻想ものからドナルド・ウェストレイクや『シュロック・ホームズ』といったユーモア、ドタバタ、また泡坂妻夫(デビュー作の亜愛一郎から遺作となったヨギ・ガンジーまで縁が深い)から三津田信三(編集者時代の『ミステリー・ワールド・ツアー』からのおつき合いだとか)にまで至る日本作家など、ありとあらゆる作家・作品を手がけてきたといっていい。
実際、出席者もそれぞれ特に強く反応する勘所は違いながら、ご持参いただいた幅広い作品のコピーやプリントアウト、データを懐かしんだり、意外さに驚いたり。個人的には友成純一スタンド・バイ・ミー」(「小説CLUB」)がお宝だったが、全員がどよめいたのは『学校の怪談 ベスト・コミック』。『学校の怪談』から楢さん自身が好きな作品を選んで、何とコミック化。つまり楢喜八のコマ漫画なわけですよ! コミックでなく児童書のコーナーに置かれたせいかあまり売れなかったとのことで、今や幻の本となってしまったが、復刊が切望される。
もともと福井英一、馬場のぼるなど漫画への憧れもあったとのこと、挿絵でも描きやすいのはドタバタだそうだが、なるほど「動き」を感じさせる(『七人の探偵のための事件』で表紙と連載時の挿絵を描いてもらった芦辺拓さんによれば、奇妙なアクションの勘所を、要素を凝縮して見事に絵にしてもらえたそう)と一同納得。
ちなみに描く時は読みながら自分でシーンを選ぶそうで、大体クライマックスの手前辺り、一番絵になるところが掴めるというのは、やはりセンスと長年の経験か。作家や編集者から注文がつくことはないそうだ。
使う紙の大きさは原寸の1.2〜1.5倍、B2〜3くらい。目が疲れるのと、点描調の作業が大変なので、最近はあまり大きい紙は使わないとのこと。点描で微妙なグラデーションを出すためには、やはりコピペでは無理で手書きに限るそうである。
また、特に初期に目立つ人物の歪んだ造形(のっぺらぼうや身体各部のアンバランスなど)は、一目で自分の作品と判ってもらうための明確な特徴付けという「確信犯」だったとか。


個人的に興味が向く豆本に関しては、やはり阿刀田氏からの引きだったらしい。今回見せていただいたコピーの中にも、豆本に収録された阿刀田作品の雑誌初出版があった。ということは、他にも再録画があるのだろうか。
また、『学校の怪談』への起用は、その阿刀田作品での仕事を目にとめていた常光徹氏自身からのオファーだったそうで、子供向け分野において正しい継承がなされている証といえるだろう。
他にも、藤本義一のスポーツ新聞連載の原稿が、当初はまとまって早めに来ていたのが徐々に遅れていったり、阿佐田哲也に至っては次の日の分が1枚だけ来たり(どうしろというのだ?)といった裏話や、現在は夏に出るゴジラ論の本の表紙を描いていること、ミステリ、ホラー、SF系の個展をやりたい(やってほしい!)など、さまざまな話を伺った。
終了後は出席者がサインを求める中、芦辺さんが前述の自著『七人の探偵のための事件』にサインしてもらっていたのが珍しいパターンだった。


さらに有志でのお茶会にもつき合っていただいたが、そこで岡本喜八の『ブルークリスマス』に関して意外な話が。
当時、楢さんは横浜・石川町に友人と共同で艀を持っていて、個展を開くのに使ったりしていたのだが、喜八作品の美術を別の友人がやっていた縁で、『ブルークリスマス』のロケに使われたのだという。
早速帰ってから確認してみると映画の後半、青い血を持った大谷直子が特殊部隊の勝野洋に尾行されて逃げ込む、地下組織のアジトとなっている喫茶店がそれだった。壁には楢さん自身の作品も飾ってあるのだけれど、さすがにどんな絵かまでは判らないものの、画面の黒っぽさはいわれてみればいかにも楢作品らしい。
ちなみにペンネーム(でいいのかな)の「喜八」は、岡本監督とはあまり関係ない様子、「楢」は木がお好きだから、とのことです。


とにもかくにも長時間お話を伺えて読者(?)冥利に尽きるというもの。
個展や画集、何とかならないですか、各方面?

捌くのは俺だ

東京新聞(3/18)特報面より。

選挙報復か
秋田・にかほ市長 指名外し補助金減額


昨年10月、3選された秋田県にかほ市の横山忠長市長(66)が、選挙の対立候補の関係者が関わる団体の補助金をカットしたり、関係会社を市発注工事の指名競争入札から外したりしている。報復とも取れる行動に批判が出ている。

市長選の対立候補は会社役員佐藤ちづ子氏(66)。ちづ子氏の後援会長を務めた佐藤作内市商工会長(66)は選挙後、商工会の運営補助金を例年の1100万円から600万円に減額すると通知された。補助金の復活と引き換える形で辞表を出した。経営する電器店は、備品購入の入札から外された。ちづ子氏の夫正氏(67)が社長を務める測量設計会社は指名外しを受けた。
関係者によると、横山市長と佐藤氏は以前からそりが合わなかった。ちづ子氏が市長の後援会役員を務めていた経緯もあって、確執が深まったという。
佐藤氏は「個人の立場で選挙応援したのに公的団体の補助金カットという形で報復するのは考えられない」。正氏も「誰も選挙に出られなくなる」。
横山市長は4日の市議会全員協議会で「お騒がせした」と陳謝する一方、「選挙戦で誤った数字に基づいて市政を批判された。社会的な責任を取ってもらった」と発言した。行動自体は問題ないという姿勢だ。
指名外しは横山市長が初当選した2005年にもあった。市内の建設業関係者は「横山市政以前からある悪弊だ」と指摘する。市長は以前、旧象潟町の職員で、「職員時代に悪いやり方を学んだのではないか」と推測した。
市財政課によると、指名外しは市長の指示で、「市長の裁量権の範囲内で法令違反には当たらない」と説明する。ただ、公共工事への参加は公平であるべきで、権力による仕返しと見られても仕方ない。
県内の首長の1人は「選挙に誹謗中傷は付き物だとしても、終わればそれまで。首長が特定の業者を入れたり外したりするのも考えられない」と話す。
横山市長との1問1答は以下の通り。
―市商工会の補助金カットを指示した理由は。
「選挙のしこりと言うより以前からの問題だ。佐藤会長は市政批判を繰り返してきた」
―指名から外した会社社長は佐藤ちづ子氏の夫だ。
「(ちづ子氏は)自分の後援会役員をやってもらっていたのに、突然立候補した。後ろから斬りつけられたようなものだ。誤った内容で批判されたこともあり責任を取ってもらった」

まあどこにでもあることかもしれないけど、こんなにあからさまで、しかも全く悪びれていないところが凄い。
年齢からするとみんな同級生で、長年ドロドロしてたりするのかなあ。ちづ子氏を巡っていろいろあったりとか。

永遠の仔猫たち その3 仁義なき戦い

金玉の中身と引き替えにエリザベスカラーをつけられて帰ってきたふくさん、とにかくありとあらゆる動きがままならず、少々どころか大いにおむずかりのご様子。考えなしに走り回り、あっちにぶつかりこっちに引っかかりですっかり嫌気がさしたのか玄関の隅にうずくまり、頭をたたきにのせて(カラーがちょうどいい具合に支えられるらしい)ぶすっとしている。

腹の減ったときだけ出てくるのだが、これがまた毎回ひと騒ぎ。まず“食卓”であるキッチンのテーブルに自力で飛び乗れない。目測を誤ってカラーをどこかにぶつけ、自分で自分を叩き落としてしまうのだ。気づいた俺か妻に乗せてもらってからも、餌に近づけない。考えなしの子なのでいつもと同じ感覚で勢いよく突っ込んでいき、その結果カラーで餌の器をどんどん押していってしまうのである。そこで我々がいちいちコントロールして、カラーの内側に器を保ち続けなければならない。これに関しては、普段使っている丸い皿から舟形の小さいグラタン皿に変え、尖った部分をカラーの中に突っ込むことでかなり改善された。
しかしふくが食事以上にイラつくのは自分のお腹を吸えないこと。どういうことかというとこの兄妹、うちにきて間もない頃、あんこが母親代わりにふくのお腹に吸いついて、お乳をチュウチュウし始めたのがすっかり習慣化したどころか、なぜかふく自身までもがどっかり座り込んで自分で自分のお腹を吸うようになり、妻や俺に見守られ撫でられながらチュウチュウするのが無上の悦びと化したのである。正直どういうつもりか訳が分からん。
ともあれ、カラーによってお腹を遮られてしまったふくは必死に背を丸めても届かず、虚しく空を吸うことになってしまった。後肢を前に投げ出してどっかりと座り込み、背中を丸めて両前肢でお腹を押さえた姿は通常時から何ともオッサン臭く、フサフサした尻尾とも相まってまるで信楽焼の狸のようなのだが、それに加えて手術の影響で玉袋が数倍の大きさに膨れ上がっているため、まさに狸そのもの。

普段なら、母親ならぬ自分のお腹をフミフミする手も、カラーに邪魔されてあろうことか玉の周りをギュウギュウ押すことに。その動きに刺激されて次第に突き出てくるチンチン……。もう何とも情けないやら気の毒やらで泣けてくる。

そんな惨めな兄に同情したかのように、いつになく優しく見えるあんこ。肩に手をかけそっと寄り添い、自分では毛づくろいも身体を掻くことも出来ない兄に代わって、最初は腰が引けていたカラーの中に首を突っ込み甲斐甲斐しく顔を舐めてやるその姿の健気さよ


――などと思っていた我々は甘かった。ふくの動きが鈍いことに気づき始めたあんこは、次第に調子に乗っていく。
高いところに登れないふくを常に上の位置から悠然と見下ろし、死角から飛びかかってはカラーに邪魔されて反撃できない相手を嵩に掛かって攻め立てる。その攻撃の無慈悲・卑劣さはさすが畜生。
だが、ふくもさるものであった。徐々に動きの勘を取り戻し始めたふくはどたばたと走り回り、あんこの攻撃にカラーを振り立てて応戦。相手の頭をカラーで張り飛ばすところなどは、さながら恐竜の進化を見るようである。こうなると体重の軽いあんこは不利で、カラーで殴られて怯んだところを逆にのしかかられると、体重差に加えて相手の弱点であったはすのカラーがかえって障害になり、脱出も攻撃も思うように出来ない。もっともふくの方もそれ以上何が出来るわけでもなく、自分より軽い格闘家にマウントを取ったものの攻めあぐねて、ただ乗っかっているだけのプロレスラーみたいな状態なのだが。
何にしても生き物というのは環境に適応していくのだなあと感じ入った次第。

永遠の仔猫たち その2 帰って来た男(カラーつき)

10月1日(火)

ついにふく去勢の当日。今回も前夜からメシ抜きのふくを連れて病院に。夕方頃にはタマを取られて、念のため1晩泊まるとのこと。
預けて帰ってくるとあんこがおかしい。異様に甘えてまとわりついてくる。生まれて初めて猫1匹、しかも俺とふくが一緒にいなくなり、妻と2人きりという状況に寂しくてたまらずパニクってしまったらしい。とにかく甘く弱々しく鳴きながら、俺たちにベタベタして離れない。そうかと思うと突然立ち上がって家の中を一通り見回ってくるのは、妻曰くふくを探しているのではなかろうかと。俺が仕事に出ていった後は、何度も玄関へ様子を見に行っていたらしい。何とも不憫でたまらない一方で、正直あんこの甘えっぷりを満喫する我々であった。普段はあんこが甘えているとふくが邪魔しに来るからね。

翌日、退院するふくを迎えに。初めて独りぼっちを経験した後の涙の対面――と思いきや、俺に見向きもしない。怒っている。ひたすら怒っている。エリザベスカラーなんぞつけられて。先生に手術の様子を写真で説明してもらい、同じ雄として金玉が縮みあがるような思いを味わって帰宅。
いよいよ感動の兄妹再会――となりかけたところでバッグから出てきた兄の異様さに、走り寄った妹はぎょっとなる。

一方兄は重い頭をぶんぶん振り立てながら、留守中異常がなかったかどうか家中をパトロールして回るが、とにかくぶつかる、通れない、登れないで思うように動けずイライラが募っていく。餌や水も顔を近づければ近づけるだけ、カラーに押されて遠ざかることに。さらにはふくの一番の楽しみである、座って自分のお腹をチュウチュウ吸うことも出来ない。どんどん険しい顔になっていくふくさん。カラーが取れるまでの1週間、果たして無事乗り切れるのか?